●合格より「充実した小学校生活」を目指して
──若鷲会のホームページを拝見すると、現役の校長、教頭、前・元校長のほか、入試担当の先生までが保護者講習会の講師として名を連ねていますね。
長倉 ええ。ここ3年間で20数校の先生方においでいただきました。
──顔が広いですね(笑)。
長倉 まあ、個人的に昵懇にさせていただいていますので‥‥。私の場合、小学校受験にかかわって30年近くになります。受験情報誌の編集長をしていたこともあり、私学の先生方との座談会に出席したり、研修会に参加させていただいたこともあります。そんな関係で小学校の先生方とも親しくなりました。その当時、学年主任とか、教務主任だった先生が、校長、教頭になっておられるところもあります。20年近くおつき合いいただいている先生も少なくありません。そうした人間関係とは別に、「この教室で指導された子は入学してからの成績がいい」とほめていただくこともあります。そうしたことの積み重ねだと思います。
──この子を頼みますと口添えをすることもありますか。
長倉 いや、それだけはやりません(笑)。子どもがかわいそうです。受験した学校の教育方針に合うと客観的に評価されたからこそ合格しているわけです。コネなどの要素を持ち込むのは、長い目で見れば子どものためにはならないと思いますね。ただ、試験前に、その子の良さ悪さを正直に学校側へお伝えする場合もあります。また、試験が終わった後で、どのくらいの成績だったか、不合格であれば何が悪かったかを教えてくださる学校もあります。それが、そのご家庭の4月までの課題となることもあるし、次の年以降のこちらの準備の参考にもなります。
──各小学校ではどういう子どもがほしいのか、その辺の情報もいろいろ入ってくるんでしょうね。
長倉 お母さん方から、よく質問されるんですよ、「うちの子はどこ向きでしょうか?」と。わかりませんよ、そんなことは(笑)。「○○ちゃんは○○小学校向きですよ」「○×学園に合っていますよ」などとおっしゃる先生もいますが、どうでしょうか‥‥。
我々が申し上げることができるのは、どの学校の試験に向いているか程度のことです。それから、「この学校でうちの子はやっていけるでしょうか」と聞かれることも多いんですが、これもご両親や我々が決めることではなくて、小学校の先生方が決めることです。どうすれば合格できるのかよりも、どうすれば6年間の充実した小学校生活を送れる子に育てられるのか、そこをお考えくださいと申し上げています。
ご家庭・お子さんにとっての「充実した小学校生活」とは何か、これはご家庭によって違うんですね。その希望に合った小学校を探すことが、志望校選びの原点です。だからこそ、ご両親は志望校のことをあらゆる観点から研究してほしいのです。小学受験がご両親の受験だという大きな理由はそこにあると思います。
●お母さんのレベルを上げれば合格できる
──「親子で学ぶ」と「本好きの子どもに育てる」というのが、若鷲会の基本的な指導方針ですね。。
長倉 ええ、子どもにとって一番の先生はお母さんなんですよ。アドバイザーがお父さん。幼児教室はその次です。うちの指導を受けたから合格したという幼児教室もあるようですが、僭越ですね(笑)。
そもそも志望校に合格するだけの力を持っている子は、Aという幼児教室へ行っても合格しただろうし、Bという幼児教室へ行っても合格していたと思います。もちろん、よく調べないで、お子さん、ご家庭に合わない教室をお選びになった場合は別ですが、そこをきちんとなされていれば、どこでも似たようなものです。
それは幼児教室の先生が指導がよかったからではなく、お母さんの努力が実を結んだということです。むろん最初から偉いお母さんもいますが、そうでない場合も、お母さんのレベルを上げれば合格できるんですよ。小学校受験というと、みなさん真っ先にペーパーを思い浮かべて、ペーパーの指導をたくさんしてくれるところがいい教室だと思っているかもしれませんが、ペーパーテストだけで合否を決める学校はありません。ペーパーは、合否を決めるいくつかの要素のうちの一つです。
──ええ、ええ。
長倉 小学校受験というのは、ご両親がしっかり学校のことを研究して、自分の子どもに合った学校を選ぶ。それが基本です。お子さんが、どんなご両親の下で、どういうふうに育っているかを知るために、ペーパーもあるし、慶應や立教のようにゲームとかグループで何かをやらせたりするのです。
もう一つは、年齢相応のことを身に付けているかどうかです。生活力みたいなものですが、早稲田はこれを重視していますね。躾やマナー、一般的な常識についても、家庭で身につけさせなければいけません。幼児教室がお手伝いできることは、学校を理解するための情報を提供する、そして、各学校の試験の方法に合わせた練習法などをアドバイスする程度です。知育面も躾もマナーもすべて幼児教室で教えてくれると思っているお母さんもいますが、そうじゃないんです(笑)。
幼児教室に通うのは、せいぜい週に1〜3回です。お母さんといる時間のほうが圧倒的に長いんです。だから、その辺をお母さんにしっかり理解してもらって、家でお母さんが先生となって、間違わないようにやっていただかなければいけない、親子で学ぶというのは、そういう意味合いです。
──「本好きな子どもに育てる」という狙いはわかりますが、試験には直接関係ないと疑問をもつ親はいませんか。
長倉 たしかに、入試対策としては直接的ではありませんが、「本を読む」というのは、受験対策としても大きな効果があります。私どもで指導した子どもたちは、入学後に成績が伸びるという評価をいただいているのも、入学前に本が好きになっているからだと思います。
音読の授業では、大きな声を出します。姿勢もよくなるし、みんなの前で発表する能力や説明能力でも良い影響を与えています。「本好きな子どもに育てる」というのは、一見、受験には直接関係なさそうですが、5〜6歳児に必要な能力のほとんどが身に付くと思っています。
小学校へ入ってからのことを考えると、本が好きな子とそうでもない子の差は歴然としています。小さい頃から本を読む習慣や本の面白さが身に付いていると、小学校へ入ってからでも自分から興味を持っていろいろな本を読みます。そして調べます。そういう子どもを学校側はほしがっていると思いますね。
●子どもが躾やマナーを真似できる両親であってほしい
──こちらの面接指導は40〜50分とずいぶん時間をかけていますね。
長倉 実際の面接は10分前後ですが、こんなことを聞かれるかもしれないという項目が20あったとしても、実際に聞かれるのはそのうちの3つか4つです。しかし、20あるなら20やっておいたほうが安心できます。このため時間をかけています。
それに時間を長くすると、保護者も本人もボロが出やすいから、アドバイスや注意事項も具体的に指摘できます。模擬面接は9月の始めから10月中旬までですが、場合によると、そこから父親の受験が始まります(笑)。熱心なお父さんの場合は、その前からいろいろ準備をしておられますから、最後のチェックのために模擬面接を受けるということになります。そういう方の場合は注意することはほとんどありませんね。
──志望動機をどう答えたらいいか、これに頭を悩ます父親も少なくないようです。
長倉 ええ、たしかに、志望動機は抽象論になりやすいですね。学校の教育方針や特徴などを暗記して、そのままおっしゃってしまう(笑)。パンフレットに書かれているようなことを言っても評価されないことは、みなさんよくわかっているんだけれど、うまく表現できないんですよ。
結局、志望動機が正確に伝わらないままで面接が終わってしまう。これでは、通信簿評価でいうなら5段階で「3」です。この評価では、お父さんがお子さんの足を引っぱっているわけではありませんが、お子さんを合格圏内に押し上げるだけの力はありません。競争倍率の高い学校では3は不合格でしょうね。
──どうしたらいいですか。
長倉 お父さん方に申し上げるのは、あなたの会社の新入社員の面接と同じですと。たとえば、商社マンの方だったら、商事会社で働きたいという意欲は伝わってきますが、なぜ三菱商事や三井物産でなくて住友商事なのか、それが全然伝わって来ない、それと同じことですと申し上げるとわかってくださいます。
ふつう多くの幼児教室は日曜日は休みですが、私どもの場合、日曜日もやってます。それというのも、できるだけお父さんに参加していただきたいからです。お父さんが受験を賛成してくれないと子どもがかわいそうです。うちは最終的に公立へ行く子が多い時で2割、たいてい1割はいます。特定の学校に入れなければ公立へ行くという子もいます。
受験の方法論だけでなく、私学の良さ悪さ、公立の良さ悪さ等をお父さんがよくわかった上で受験しない、という選択肢があっていいと思います。ご両親がそこまで頑張れれば、私立でも公立でもいいんですよ。私立ならどこでもいいというのは、あまり感心しませんね(笑)。
──5歳から6歳までに身に付けておかなければならない躾、マナーは何ですか。
長倉 学校側は、お箸の持ち方、言葉使いなど、普通のご家庭で身に付いていることを要求しているだけのことです。きちんと人の話が聞けて、自分の意見が言えて、言葉使いも友達に対する言葉と先生に対する敬語の使い分けができることは、普通のご家庭なら身に付けていることです。
そういう意味で具体的に何ができるということではなくて、いろいろなことが普通に恥ずかしくなくできるご家庭であれば、お子さんも普通にそうなっているんじゃないでしょうか。ご飯を食べている最中に立っても良いとか、歩きながらお菓子を食べるということは、本来、普通のご家庭ならばそれがいけないと身に付いているはずなんです。躾やマナー、常識については、子どもが真似できるご両親であってほしいと思いますね。
それから、今のご両親は過保護です。子どもができることを子どもにさせないのは子どもを不幸にします。幼児教室に通わせるときでも、子どもが持てる荷物は子どもに持たせないと筋肉が発達しないし、責任感も出てきません。忘れ物をしたらかわいそうと心配かもしれないけれど、失敗したらカバーしてあげればいいんです。
肉体的、精神的にも、子ども自身でできることは山ほどあります。どんどんさせてあげるべきです。それがお子さんの成長を促します。これらを一言でいうと、常識豊かなご家庭を築き、ご家庭の文化度を高め、ご自慢のお子さんに育てていかれれば、結果=合格は後からついています、ということです。そんなに特別なことを学校は求めていません。
──ありがとうございました。
この記事は弊社刊『平成18年度 お入学の本 首都圏版』より転載しました。