願書の文案を幼児教室の先生に見せると、「抽象的な文言では相手に伝わりません。具体的なエピソードを入れてください」と指摘されます。わが子がどんな子かは、むろん、ご両親はよくわかっていますから、いちいちエピソードをまじえなくともいいと考えがちですが、願書の読み手はわかりません。なぜ具体的なエピソードを盛り込んだほうがいいかを説明します。
ABCの志望理由を読み比べてください。
A エピソードのない志望理由
娘には優しさや思いやりのある女性となり、物事を正しく判断できる考え方、価値観そして実行力を身につけ、将来は自分の能力のあった形で社会に貢献して欲しいと願っております。御校の○○の精神のもとに、素晴らしい環境と暖かい先生方に見守っていただく中で、社会に貢献していくことができるような品格ある人間に成長してほしいと願い、志願させていただきました。
B エピソードのある志望理由
奉仕や感謝の心を大切に育てて参りました。卵アレルギーを持つお友達が自宅に遊びに来た際に、卵を使用せずに作れるデザートを一生懸命考えたり、また自然災害などで困っている人々への献金のためにおやつを我慢して貯金をしております。御校でのキリスト教による人間形成を重んじる教育の中で、心豊かに良き人生を送るための基盤を培ってほしいと考え、志願致しました。
読み手の印象に残るかどうかという視点からみると、Bの志望理由のほうが説得力があります。
Aは、「優しさや思いやりのある女性」「物事を正しく判断できる考え方、価値観そして実行力を身につけ」「自分の能力のあった形で社会に貢献して欲しい」‥‥そのために「志願した」と志望理由は明確です。しかし、読み手の印象には残りにくいという弱点があります。むずかしいことが書いてあるわけではないにもかかわらず、なぜ、印象に残りにくいかというと、試験官はこのパターンの志望理由が書かれている願書を何百枚も読まなければならないのです。
その点、Bの志望理由は、ご両親がどんな考え方でお子さんを育ててきたのかが明確です。「卵アレルギー」「自然災害などで困っている人々への献金」というエピソードを加えることによって、「奉仕や感謝の心を大切に」というありふれたフレーズが、俄然、輝きを増して読み手の心に訴えて来ます。
エピソードを加えるということは、わかりやすいというだけでなく、「思いやり」「やさしさ」「感謝」「豊かな心」といった抽象的な言葉をピカピカに輝かせる効果があります。「思いやりのある子です」「やさしい子です」だけでは、読み手には真意が伝わりません。エピソードを添えるということの大切さがおわかりいただけると思います。
次は、Cの志望理由をご覧ください。
C エピソードのある志望理由
ある雨の朝、娘は「今日は神様が泣いているね。かなしいのかなあ。でも、たまには神様にも泣いてもらわないとお花さん達がかわいそうだからね」と困った表情で言いました。娘は、雨の冷たさも温かく感じさせる子に育ってくれたと思っています。御校の精神のもと、思いやりと感謝の心をさらに育み、そして社会に貢献していくことができるような、「白百合の花」のように凜とした品格ある女性に成長してほしいと願い、志願させていただきました。
「今日は神様が泣いているね‥‥」のフレーズもエピソードの一例です。ご両親がどんな考え方の下に、この子をどう育てたかが容易に推測できるエピソードです。「思いやり」「やさしさ」「感謝」「豊かな心」といった言葉を書き連ねなくとも、どんな子かは読み手にしっかりと伝わります。言葉や文字でストレートに訴えるよりも、読み手の想像力を刺激したほうが効果があることは言うまでもありません。エピソードを盛り込む大切さはおわかりいただけたでしょうか。
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