以下は、昨年、立命館小学校を受験したお母さんが書いた「志望理由」です。ご本人の了解を得て、全文を紹介します。この志望理由には、こう書かなければいけないという要素がすべて盛り込まれています。まず、ざっと一読ください。
私どもは、時の経過とともに蒸発してしまうような知識のつめこみだけはさせたくない、自分の頭で思考し、判断する力や未知なるものへの知りたいという欲求を大事にしたいと考えております。
今、子どもは自然科学的な事柄に大変興味をもっており、親子で○○の博物館へ行ったり、簡単なキットを使った実験をしてみたりと体験的な教育を心がけております。これを親子で心から楽しむことができることを嬉しく思っております。
第三回立命教育フォーラムの折に、○○先生が「目先の学歴に捉われず、どんな人間になって欲しいかをまず考えて欲しい」といわれたお話が大変心にのこりました。本来の学ぶという姿勢、学ぶ楽しさを知り、そしてそれを原点として知識を獲得し、人生に根を張って生きて欲しいと私どもは考えております。
これは立命館での教育でしか得られないのではないかと思っております。そして中高がスーパーサイエンス指定校であるということも、子どものこれからの人生により多くの実りをもたらしていただけるのではないかと考えております。
また、これからの時代、学校、家庭、地域が一丸となって子どもを育てていくことがいっそう大切となってくるにちがいありません。親として、そうあって欲しいと切に願っております。
学校は学校、親は親という一方通行の関係ではなく、親にも積極 的に学校に関わってもらいたいという貴校の姿勢は、精一杯学校に協力したいと考える
私どもとしましても、これほど嬉しいことはありません。新しい今までにない魅力的な学校で小学校生活を送らせてやりたいと考え、貴校を志願いたしました。
ほぼ完璧な志望理由です。その理由は以下のとおりです。
「知識のつめこみだけはさせたくない、自分の頭で思考し、判断する力や未知なるものへの知りたいという欲求を大事にしたい」と、最初にわが家の教育方針を明らかにしています。一般的な志望理由の書き方というと、志望校の建学の精神や教育方針などに共感し‥‥わが家の教育方針と一致し‥‥だから志願したというパターンが多いのですが、この実例では、わが家の教育方針を最初に述べ、志望校との接点は後回しにしています。ここがポイントです。
もし、「第三回立命教育フォーラムの折に」という部分が冒頭にきていると、単に順序が入れ替わっているだけでたいした違いはなさそうですが、実は、読み手は「またか‥‥」という印象をもちます。同じようなパターンの文章を立て続けに読むと、新鮮みは薄れてくるし、そのうち文字は目に入っても何が書いてあったか記憶に残らないようになります。
わが家の教育方針を冒頭にもってくるのは、子育てに対する書き手の自信をうかがわせます。私どもはコレコレという考え方の下に子供を育ててきました。現在、このように育っております。わが子を通わせる学校としては御校が最適と考えましたので志願しました‥‥むろん、書き手には、そんな偉ぶった気持ちはまったくなかったと思いますが、この願書を書いた母親が育てた子どもを落とした場合、学校の眼力が問われる、ちょっと大袈裟ですが、読み手にそういう印象を与える志望理由になっています。読み手がどんな印象をもつかも大事なポイントです。
次に、「子どもは自然科学的な事柄に大変興味をもっており」「親子で博物館へ行ったり、簡単なキットを使った実験をしてみたり」と、わが家の子育て方針を具体的に説明しています。ここの部分が「どんなことにも興味をもち」「観察力を養う」など、具体的に何をしているのかが曖昧になっていると説得力がありません。
わが家の教育方針に続いて、「第三回立命教育フォーラムの折に」以下で、志望校との接点を具体的に触れています。単に「○○先生の話」を引用するだけでなく、話のどの部分が心に残り、どう受け止めたかまで書き込んでいます。ふつう、「○○先生のお話に共感し」だけで終わってしまうケースが多いのですが、このお母さんは、「○○先生の話」を「人生に根を張って生きて欲しい」というわが家の教育方針にさりげなく結びつけています。
それだけでなく、この親の思い・願いは「立命館での教育でしか得られない」とズバリ言い切っています。意識してそう書いたのかどうかは知りませんが、見事な構成であり表現力です。
そして、「学校は学校、親は親という一方通行の関係ではなく」と、私立校がもっとも大事にしている家庭からの協力に対して、「これほど嬉しいことはありません」という言葉で締めくくっています。
この実例のもう1つの良さは、試験官が質問しやすい志望理由になっていることです。「親子で○○の博物館へ行ったり」の「○○」の部分は伏せてほしいという意向がありましたが、ここを読んだ試験官は「どうして○○に興味をもつましたか」と質問すると思います。また、「新しい今までにない魅力的な学校」という箇所についても、新設校ですから、やはり聞きたいところでしょう。
なお、この願書の添削を依頼されたとき、文章に関してはあえて添削は避けました。文章的にはいろいろと手を加える余地はあったのですが、いい文章よりも、書き手の人柄が推測できるという良さを生かしました。それが「ほぼ完璧な志望理由」という曖昧な言い方をした理由ですが、文章云々は些細なことです。このお母さんが育てた子どもなら間違いないと思わせる文章です。これも「いい願書」の大きなポイントです。
|