――面接のときは、両手を膝に置く、足はブラブラさせない、体をグニャグニャさせない、目は先生の顔に向ける。子どもたちはそう教えられています。
神林 でもね、1年生になって、他の子どもたちと一緒になるとそうじゃないんです。そんな行儀のいい子はほとんどいません(笑)。それが子どもじゃないですか。
――きちんとしていなければ面接で落とされるでしょう。
神林 いや、うちの場合は、たとえ子どもが部屋の中を飛び回っても、それを理由にして不合格にすることしません。面接のときは、親御さんが国立学園のすばらしさを滔々と述べてくれますが、そんな話を聞いていて子どもがじっとしていられるはずもない(笑)。
面接のときに行儀よくしていたから合格にするとか、そうじゃなかったから不合格にするなんてモノサシは持っていないということです。極端なことを言うようですが、面接のときに部屋の中を飛び回るような、そんな子どもらしい子どものほうが、素直に「自ら学び、自ら考え、自ら行動する子」に育っていくと思っているんですがね。というと、面接のときに飛び回る子が多くなるかもしれませんが(笑)。
神林 都内には50校を超える私立小学校がありますが、むろん、そういうきちんとした子どもをよしとして入学させるところもあると思います。そうでないところもある。(中略)国立駅から東、つまり都心に近いところから来た人はみんなスタイルが同じです。いわゆる幼稚園・小学校受験ルック。西から来た人の服装はバラバラ(笑)。子どももほとんどベストは着ていない。親御さんたちは、国立はお受験ルックでなくても不利にならないとわかっているから、自分たちにいちばんふさわしい服装を選んでいるのでしょうね。
――面接で不合格になるのはどんな場合ですか。
神林 私はこの学校に来て17年になります。入試に携わってから16年になりますが、面接結果だけを理由にして不合格にしたケースは、さあ、何人いますかねえ。せいぜい数人でしょう。
――どういうケースですか。
神林 うちは小学校だけしかないのに、「御校のように大学までの一貫したところで教育してもらいたい」というのは困ります(笑)。入学する子どもがかわいそうです。これは志望校を間違えているんですから、不合格になったとしても学校が拒否するんじゃない。
もう一つは、男の子だったら、「中学は開成とか麻布に入れてくれ」、女の子は「桜蔭、雙葉に入れてくれ」と。それはお断わりします。子どもの成長によってどうなるかわかりませんからね。ですから、子どもの面接でダメだったのは1人もいないと言ってもいいです。
――たとえば、父親の勤務先が経営破綻を噂されている会社という場合、やはり警戒しますか。
神林 いや、うちは父親の職業は問いません。父親の仕事は関係ないですよ。
――願書の備考欄に書く親も多いようですが。
神林 備考欄には何も書かないでくださいとお願いしています。
――なぜ書かせないのですか。
神林 あそこはこっちが書く欄です(笑)。
――しかし、父親の仕事のことを聞く学校は多いですよ。
神林 ほおっ、そうですか。でもね、入学のときにチェックしたって、そんなことはどうなるかわかりませんよ。どこの銀行に勤めているから大丈夫、この会社はだめというのは、子どもを育てることとは関係ない。現に、うちでは何もチェックしていないが、月謝が払えないというケースはありませんよ。
――親には何を聞くんですか。
神林 志望動機です。それだけはちゃんと聞きますよ。それにわが子をどうとらえているかです。きちんと答えてもらえれば面接は大丈夫です。
――教育方針のキーワードをどう志望理由の中に盛り込むか、答え方に頭を悩ませる親も少なくないようです。
神林 アハハハ。何でそんなことに神経を使いますかね。思ったこと、考えたことを話してくださればいいんですよ。
――校長の話が面白かったというのは、志望理由になりませんか(笑)。
神林 いっこうにかまわない(笑)。「自ら学び、自ら考え、自ら行動する子を育てるという御校の教育理念の下に、豊かな人間性を培うために、やさしさ、たくましさ、かしこさを中心に据えた教育方針に感銘を受けました。我が家の家庭の教育方針とぴったりです。ぜひお願いします」というありきたりの答え方よりもよほどいい(笑)。
要するに、答え方の内容に点数をつけているわけじゃないんです。「説明会の後の授業を拝見したら、教師と子どもの暖かい関係に感心した。ああいう雰囲気の中で子どもを教育したい」ということでもいいじゃないですか。
私は、学級通信に掲載された子どもたちの日記を読んで、その感想をはがきに書いて送っています。この話に感動したとおっしゃった親御さんがいたんですが、そういうことでもいいんですよ。とにかく受験する学校を間違えていなけりゃいいんです(笑)。わが子へのかかわり方を自分の考えで、自分の言葉で語ることがいちばんです。
(『平成19年度 お入学の本 首都圏版』より抜粋)