●言葉がはっきりしない人は早口言葉を練習する
――緊張すると言葉が出てこないという人もいます。どうしたらいいですか。
尾形 まず、緊張するというのは当たり前と思うことです。緊張すれば思った通りに話せないし、いつものように声がすっと出ないかも知れない、でも、それは当たり前だということを受け入れる、それで少しは気持が楽になります。もう一つは、やはり準備をしっかりすることですね。何を聞かれるかわからないという不安が緊張を増幅させます。何を質問されても大丈夫という自信がもてるまで何度も練習する、大きくはその2つです。しかし、緊張のあまり声が出なくなる、どもってしまうといったことは、面接の場ではマイナスにはなりませんから、そんなに気にすることはないと思います。緊張のあまり一時的な失語症にかかった人もいますが、お子さんは合格しているというケースも聞いています(笑)。
――緊張するしないに関係なく、もともと言葉がはっきりしないという人もいますね。
尾形 ええ。そういう人の場合は、やはり発声練習をしておくといいと思います。1週間や10日の練習ではあまり役に立ちませんが、それでも、発声練習をしたということで自信がもてるのであればそれはそれでいいと思います。
――かりに1か月の練習期間があったとしたらどんなことができますか。
尾形 まず「あいうえお」という母音の口の形を覚えることが大切です。それから腹式呼吸でお腹から声を出す練習をする、そして早口言葉を練習する。これだけのことを段階的に練習すればある程度は効果があると思います。
――早口言葉がいいのですか?
尾形 ええ、早口言葉というのは、口の形をしっかり覚えていないときちっとできません。例えば、「トウキョウトッキョキョカキョク」という早口言葉がありますが、「キョカキョク」のところが上手く言えない人が多いのです。というのも、「キョカキョク」の「キョカ」のところは「あ」の音、大きく縦の口の形で発音しないときれいに出てきません。そういう訓練が必要です。ですから言葉がはっきり出てこない人は早口言葉の練習がいいと思います。
――声に出して練習したほうがいいですか。
尾形 もちろんです。発声練習というのは、となりの家に聞こえるくらいの声を出さなければ効果がありません。ちょっと迷惑ですが‥‥(笑)。
発声と発音練習
【始める前の準備】
1.鏡を見る
2.背筋を伸ばす
3.手のひらをお腹に当てる
【腹式呼吸をマスターする】
1.鼻からゆっくり息を吸い、吸った3倍程度の長さで口からゆっくりとはく
2.吸ったときにお腹が膨らみ、はいたときにお腹が引っ込むように練習
【口の形に気をつけ、喉を開き、お腹から思いっきり声を出す】
※始めは一語づつ、次に一行続けて練習します。
<早口言葉>
※発音練習後に練習します。
おあややおあやまちをおあやまりなさい
赤巻紙、青巻紙、黄巻紙
殿様の長袴、若殿様の小長袴
竹垣に竹立てかけた
東京特許許可局長
隣の客はよく柿食う客だ
生麦、生米、生卵
バナナなどの果物を棚などにのせる
バスガス爆発
坊主が屏風に上手に坊主の絵を書いた
カケキクケコカコ
キャキェキキュキェキョキャキョ
サセシスセソサソ
シャシェシシュシェショシャショ
タテチツテトタト
チャチェチチュチェチョチャチョ
ナネニヌネノナノ
ニャニェニニュニェニョニャニョ
ハヘヒフヘホハホ
ヒャヒェヒヒュヒェヒョヒャヒョ
マメミムメモマモ
ミャミェミミュミェミョミャミョ
ヤエイユエヨヤヨ
ラレリルレロラロ
リャリェリリュリェリョリャリョ
ワエイウエオアオ
※濁音(ガゲギグゲゴガゴ・・・など)の練習もしてみましょう。
●腹式呼吸をするだけでも言葉の明瞭さは違って来る
――どうやって練習すればいいですか。
尾形 「あえいうえおあお」「かけきくけこかこ」「させしすせそさそ」というふうにきまったものがあります。
――それを壁に張っておいて練習するわけですか。
尾形 ええ、早口言葉とは別にまずそれをやります。「あえいうえおあお」だけでも発音の仕方が変わってきます。練習する前と後でテープに録音して聞き比べてください。明瞭さが全く違っているはずです。
――1か月やれば格段に違ってきますか。
尾形 違ってきます。但し、正確にやらないと意味がありません。「あ」の音だったら手の4本指が縦に口の中に入るとか、「え」は口角をぐっとあげるとか、基準をきちっと守ることが大切です。そして声を出すときは腹式呼吸をする。「あえいうえおあお」を発声したときに、お腹がぴくぴくと動きます。最初のうちは腹筋が痛くなりますから、腹式呼吸がきちんとできているかどうかは自分でわかります。アナウンサーは口をあまり大きくあけなくても言葉が明確に出ていますが、それは腹式呼吸をマスターしているためです。
――この人は発声練習をすればもう少し言葉が明瞭になるとか、言葉に勢いがでると思うことはたまにありますか。
尾形 ええ。発声練習をしていなくても声が前に出ている人もいます。声が内側こもってしまう人というのは、あごの骨格の構造だとか、舌の構造や歯などで大体決まってきます。遺伝的なものです。
――こもってしまう声は修正できませんか?
尾形 いえ、訓練である程度直ります。
――声がはっきり前に出ているかどうか、語尾がはっきりしているか、どうすれば自分でチェックできますか?
尾形 自分以外の人との比較対照をしなければわかりません。例えば気のおけない人たちとのおしゃべりをテープに録音するのもいい方法です。誰の声が通っていて、だれの声が通っていないのかがよくわかります。ご家族だと声が似通っている場合があるので、家族以外の人との比較のほうがはっきり分かると思います。
――第一印象というのは外見と声だけで93%が決まってしまいます。声は大事ですね。
尾形 ええ。初対面の人のどこに目がいくのかというと、まず一番最初に全体的な印象です。次に身だしなみ、表情、声、その後に言語内容です。言語内容が第一印象に与える影響はわずか数パーセントです。時間が経てば経つほど、一問一答の内容重視になってくることは確かですが、第一印象がいいほど、有利であることは事実です。
――姿勢によっても声の出方は違いますか。
尾形 背をちゃんと伸ばした状態ですと腹筋もかかってきますので、声が前に出ます。逆に背中が曲がっていると声はこもった状態になります。私は、電話応対の指導もやっていますが、相手がどんな姿勢で電話をかけているかは大体わかります。会ったことのない人でも声だけで骨格も予想がつきます。(2004.10.5掲載)
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