連載企画 願書・面接資料の書き方

第3回


「謙虚な志望理由」と「不遜(雑な)志望理由」

内輪の話になりますが、ある日、Eさんという読者から電話が入りました。「お入学くらぶ」のパスワードを紛失したけれど再発行してもらえるかという問い合わせです。入会時の住所もメールアドレスも変更になっていたので、新しい住所・メールアドレスをメールで送信してくださいとお願いしました。下記は、Eさんからいただいたメールです。

先ほどお電話させていただきました
○○でございます。
お忙しいところお手数をおかけいたしまして
申し訳ございません。

パスワードをお送りした直後、折り返し、Eさんから次のようなメールが入りました。「おっしゃる通り」以下の文章は、秋の受験に向けて頑張ってくださいと書き添えたことに対するコメントです。

お忙しいところ申し訳ございませんでした。
おっしゃる通り、難しい時期を迎えております。
ただ、ここで焦ってしまっては、子供をつぶし、
結果も付いてこないだろうということを忘れずに、
マイペースで進めて行けたらと思っております。
パスワード、ありがとうございました。

このEさんのメールをお読みになってどんな印象を持ちますか? いきなりパスワードを再発行してほしいというメールを送るのではなく、それが可能かどうか、前もって打診の電話をするという気配りがかんじられます。パスワードの再発行依頼ですから、「パスワードを紛失しました。再発行してください」というメール1本で用は足ります。また、あえて、これほど丁寧な言葉遣いをしなくても失礼にはなりません。でも、ここが肝心なことですが、こちらの受け止め方はどうかです。これほど丁寧な出方をされると、途中の仕事を後回しにしても、パスワードを再発行してあげようという気持ちになります。

一方、これも実際にあったケースです。家庭教師をされている先生からのメールです。初めて、小学校受験をする生徒の家庭教師をすることになったので、「お入学くらぶ」に入会し、図書を購入(2冊)したいというメールです。その日のうちに「お入学くらぶ」のパスワードをお送りし、図書を発送したのですが、翌日、「恐れ入りますが、入会をとりやめます」というメールが入りました。理由は何も書かれていません。すでにパスワードは発行済みだし、図書は郵送しています。

この家庭教師の先生にしてみれば、パスワードの発行を受け、図書を郵送済みであったとしても、「クーリングオフの対象になるから正当な権利行使」と考えてのことでしょうが、こちにとしては、腹立たしい気持ちにさせられたことは事実です。後でわかったことですが、家庭教師の話が取りやめになったために、「お入学くらぶ」への入会も図書も不要になったらしいのです。もし、断りのメールの中に、「これこれの事情で‥‥」と1行書かれてあれば、こちらも不愉快な気持ちにはならなかったのです。

願書の書き方から話がそれたようですが、たとえ手紙やメールであっても、相手の心を動かす書き方があります。Eさんと家庭教師の先生の違いは何かというと、「謙虚さ」でしょう。「お忙しいところ申し訳ありませんが‥‥」の一言を書き添えることができるどうかの違いは、大袈裟なようですが、生き方の違いかもしれません。願書を書くときは、このEさんの「謙虚さ」がどうしても必要なのです。それを申し上げたくて、Eさんのメールと家庭教師の先生からの2つのメールを紹介しました。

ある校長は「志望理由」を丹念に「見る」と言います。「読む」ではなく「見る」です。志望理由はほとんど同じだから、どんな気持ちで書いているかを感じ取るために「見る」のだそうです。何百枚もの入学願書を見ていると、本当に入学したいという気持ちで書かれている願書とそうではない願書が自然とわかるそうです。「雑な願書の場合、それだけの理由で不利にあつかうことはありませんが‥‥」とはいうものの、本音は違うかもしれません。わずか数行の志望理由の中に、「謙虚な志望理由」と「不遜(雑な)志望理由」を見分けることができるのかどうか疑問ですが、「何となくわかる」と言います。何十年もの間、毎年何百枚という入学願書に目を通している人にしかわからないものかもしれません。


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