連載企画 願書・面接資料の書き方

第5回


「手垢のついた言葉」を使わない

 
誰でも思いつく言葉、使い古された言葉や言い回しはできるだけ避ける、これがいい文章を書くコツです。願書のように、テーマもスペースも決まっている文書でも同じです。というより、願書だからこそ、ひと味の工夫がほしいところです。
 たとえば、子どもの長所・短所は何かというテーマで書くとします。これは願書だけでなく、面接でも質問されることが多いテーマです。受験するからには、「書く」か「聞かれる」か、そのどちらかがあると思って事前に準備しておいたほうがいいでしょう。幼児教室の指導を受けていない人が書くと、こういう言葉がたくさん出てくると思いますが、いかがでしょうか。

 
「好奇心の強い子です」
 「思いやりのある子です」
 「我慢強い子です」
 「明るい子です」
 「協調性のある子です」
 「リーダーシップのある子です」
 「どんなことにも最後までやり遂げる子です」

 
 こういう書き方をすると、幼児教室の先生方はけっこうですとは言いません。具体的に書いてくださいと指摘するはずです。というのも、「発想が豊かな子です」だけでは、どんなふうに発想が豊かなのか、読み手にイメージがわかないのです。
 
「発明好きな父親に似て、とても発想が豊かな子です」
 これでも漠然としていますね。
 
「段ボールと新聞紙を組み合わせて動物や乗り物をつくらせると、1時間でも2時間でも熱中します。ときどき親がびっくりするようなユニークなものをつくることがあります」
 これだと、だいぶ具体的になりますね。どんな子か、ぼんやりとでもイメージがわきます。「発想が豊か」とか「創造力がある」「集中力がある」という言葉を使わなくても、意味は通じます。

 こういった「手垢のついた言葉」を使わないで書く練習をしてみてください。そんなにむずかしいことではありません。「創造力」という言葉を使わないで、いかに創造力のある子かを読み手に納得してもらうのですから、否応なしに具体的に説明することになります。
 「思いやりがある子です」よりも、
 
「泣いているお友達がいれば、声をかけるなど、思いやりのある子です」
 このほうがちょっとだけ具体的です。もう少し工夫してみましょう。
 
「仲間はずれになった子やみんなと一緒に遊べない子がいると、どうしたの? と声をかけたり、その子と一緒に遊ぼうとするなど、思いやりのある子です」
 このほうがより具体的ですね。もっと書くスペースがあるなら、
 「祖母が風邪で寝込んだとき、祖母の枕元で絵本を何冊も読んであげていました」という一文を付け加えてもいいですね。こうなります。

 
「祖母が風邪で寝込んだとき、枕元で絵本を何冊も読んであげていました。また、幼稚園では、仲間はずれになった子やみんなと一緒に遊べない子がいると、どうしたの? と声をかけたり、その子と一緒に遊ぼうとするなど思いやりのある子です」

 こういうさりげない一文を入れることで、読み手は、この子は思いやりがあるだけでなく、「家族を大切にする家庭で育った」というイメージをもちます。ついでながら、「‥‥していました」という言い方は、ちょっと他人事のようですが、こういう言い回しをすることで、母親から言いつけられたのではなく、自発的に絵本を読んであげたのかなという印象を感じます。
 また、上の文章の末尾に、「‥‥とクラスの先生にほめられたことがあります」と付け加えてもいいと思います。

「祖母が風邪で寝込んだとき、枕元で絵本を何冊も読んであげていました。また、幼稚園では、仲間はずれになった子やみんなと一緒に遊べない子がいると、どうしたの? と声をかけたり、その子と一緒に遊ぼうとするなど思いやりのある子です、とクラスの先生にほめられたことがあります」

えっ、そんなことは一度もなかった、ですか? いいんですよ、そんなに堅苦しく考えなくても‥‥。わが子の長所はストレートにほめるよりも、第三者の口を借りるのがコツです。


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