父親で合格することはないが、落ちることはある。子供の足をひっぱるな、それがパパの役割です──というと、お子さんの受験に一生懸命なお父さんから叱られそうですが、むろん、だからといって、お子さんの受験に無関心であっていいというわけではありません。
小学校受験というと、たいていは奥さん任せというケースが多いのですが、父親が積極的に参加したほうが合格率は高くなるのが現実のようです。ただ、父親が熱心すぎるといろいろと弊害も出てくるケースが少なくないのです。「弊害」といったら大袈裟ですが、父親があまり張り切りすぎると、お子さんには逆に負担になる場合が少なくないのです。要は、「ほどほどに」ということでしょうが、その兼ね合いがむずかしいところです。
ある幼児教室から、こんな話を聞いています。
「最近、子供の受験に熱心なお父さんが増えています。土曜日の送り迎えはほとんどがお父さんです。授業中も熱心にメモをとっているし、授業が終わった後もお父さんからの質問が多いですね。これは大いに歓迎したい傾向ですが、あまり熱心なお父さんというのも考えものです。たとえば、授業を1回お休みしたときに、1回分の授業料は差し引いてもらえるのかと聞いてこられたお父さんがいたんですが、ここまで細かいことに気がつくお父さんだと、ご家庭でもきびしいのかなと心配です」
こういう指摘もあります。
「お子さんの受験を理由に1年間だけ、残業と月に1、2回ある土曜日出勤を免除してもらったお父さんがいました。毎日、7時には家に帰ってきてペーパーの勉強を見て、土日には、お子さんと公園でキャッチボールやサッカーをしたり、水族館や植物園などに連れて行くなど、模範的なお父さんです。しかし、お父さんの熱心さが原因とは言いませんが、夏休みに入る直前、お子さんにチック症状が出ました。無気力になって、急にふさぎ込んだり、はしゃいだりと、感情がコントロールできなくなりました。成績も落ちてきました。明らかに頑張り過ぎが原因です」
「受験」というと、たいていのお父さんが受験戦争をくぐり抜けてきた経験をもっています。俺は過酷な受験競争を勝ち抜いてきたという自負心があります。たかが小学校受験とバカにしてはいないものの、やはり高校・大学受験に比べたら、横綱とシロウトくらいの差があると内心軽く考えてしまうようです。小学校受験と高校大学受験はまったく別ものと気づくのは、ずっと後のことです。幼児教室による模擬面接を受けたのがきっかけというケースが多いようです。しかし、そのときは受験は目前です。
また、お父さんの多くは年齢的には30代から40代前半でしょうか。サラリーマンであれば、目標達成のためのビジネスノウハウを叩き込まれています。子供にチック症状が出たというお父さんの場合、4月から11月の本番までの計画表をつくっています。それも日別です。横軸は月日。縦軸は、ジャンル別ペーパー問題進捗状況。思考、推理、言語など10のジャンルに分かれていて、もう、こうなると、仕事感覚です。
むろん、それがイケナイというのではありません。立派です。でも、お風呂に入ったときは、「この石鹸でお話をつくってみよう」、動物園に行ったときは、「肉を食べる動物と野菜を食べる動物を3つずつ言ってみようか」、信号のある場所にきたら、「信号が黄色のときはどうするのかな」‥‥ちょっとため息が出ますね。
「子供さんは、とてもいい子でほかの先生方も○だったんですが、お父さんにチェックが入りましてね。意見はわかれましたが、見合わせようという結論でした。まあ、真面目で立派なお父さんなんですが、ちょっとしたことでも見逃せないというタイプです。その点が気になりました」
何か、奥歯にモノが挟まったような言い方ですが、要するに、この父親の場合、些細なことでも、すぐ学校にクレームを付けてくるタイプという心配があったようです。
面接の際の想定問答をA4判の用紙に20枚以上つくった父親もいます。おそらく300問くらいの質問と回答をつくったと思います。奥さんを試験官に見立てて、毎晩のようにリハーサルを繰り返したのですが、実際に聞かれたことは、「志望動機」だけだったようです。
それでは想定問答の作成は無駄だったかというと、子育てに対するお互いの考え方がよくわかったというメリットがあったようです。「子供にどんな人生を歩いてほしいか」「父親のあり方をどう思うか」「親が子供にしてやれることは何か」「家族とは何か」等々、2か月、毎晩1時2時まで練習をしたのですから、志望校の合格以上に大きな成果があったかもしれません。
父親が受験準備に本腰を入れれば、こうした「副次的なメリット」もあるにはありますが、それにしても、やはり、父親のあり方というか役割を考え直す必要があるかもしれません。父親で合格することはないが、落ちることはある──これが小学校受験の一つの側面なのです。
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