連載企画 願書・面接資料の書き方

第11回



学校説明会の感想文で内定をもらった「感想文」

前々回、学校説明会の感想文で合格の内定をもらったケースがあるとご紹介しましたが、当のご本人に、どんな感想文を書いたのか再現してもらいました。「10年前のことだから正確ではありませんが、大意は当時のままです」とのことです。ちなみに、お子さんは青山学院に入学しましたが、中学は開成中学に進みました。今年3月、開成中学をトップクラスの成績で卒業して開成高校に進みました。いずれ東大ですかとお訊きしましたら、「話し合ったことはありませんが、本人はそのつもりのようです」ということでした。どんな子育てをしてきたのか、大いに興味があります。いずれ、別のコーナーで原稿を書いていただく予定です。なお、以下の感想文を出して、校長からお会いしたいと電話があったのは青山学院ではありません。競争率10倍近い人気校です(編集部)。

前略 先日、貴校の学校説明会に出席させていただきました。これは学校説明会に参加した折の感想です。何か不愉快な思いをしたとか説明会の運営に対して不満があって手紙を書いたのではありません。校長先生のお話をお伺いし、また授業を拝見し、いささか興奮し感じたままを書き連ねました。お忙しい毎日と思います。お暇な折にでもお目通しいただきますれば幸いです。

「興奮し‥‥」とは大袈裟なようですが、学校説明会で、校長先生がおっしゃられた「自ら考え、自ら行動する」という言葉が私どもの心にとても強く残っております。ちょうど1年前の説明会に出席させていただいた時も、同じ言葉をおっしゃっておられたことをしっかりと憶えております。

私どもの家庭でも、一人息子に対しては、「自分で考える」「幼児期に必要な知識はすべて体験から」という方針の下に育ててきたつもりです。子どもが3歳くらいのときだったと思いますが、「公園の桜の木にはなぜサクランボがならないの」と聞かれたことがありました。この木はサクランボがならないんだよと教えてあげましたが、そんな答えで子どもが満足するはずもありません。なぜ、どうして‥‥と、矢継ぎ早に突っ込まれたら答えようがないと思い、よし、今度の日曜日、サクランボがいっぱいなっている木を見に行こうと、子どもの関心をそらせました。日曜日、親子3人で山形県の寒河江まで訪れました。

妻がクルマの中で地図を広げて、ここがサクランボがいっぱいなっている山形県の寒河江というところ。ケンちゃんのお家はここよ。今、パパがクルマで走っているのは、この道よ。こんなにも遠いから、冬はとても寒いの。サクランボがいっぱいなる木は、冬になると雪が降るような寒いところでしか育たないのよ。妻は、そんなふうに説明をしていました。

サクランボがびっしり実をつけた桜の木を見つけた息子は、わぁと両手を上げて駆けだしました。目を輝かせて、今にも踊り出すほど興奮していました。さきほど「幼児期に必要な知識はすべて体験から」と偉そうなことを申し上げましたが、最初から、そう考えていたわけではありません。私も妻もドライブが好きですから、たまたま「子どもにサクランボを見せる」という口実が見つかったに過ぎません。しかし、初めて見たサクランボの木に、興奮のあまり頬ずりしたわが子の様子を見て、子どもが関心をもつことはすべて見せる、体験させるのがいいと、そのとき気づいたというのが本音です。

それ以後、この魚は近くの川にもいるの? と聞かれれば、新潟や茨城の魚市場につれて行き、ここのおじさんたちが船に乗って遠くまで行き、魚をとって来るんだよと説明してやりました。毎年のように各地の水族館にも連れていきました。そのためかどうかはわかりませんが、子どもはどんなことにも、なぜ? どうして? と強い好奇心を示すようになりました。「ゾウさんは食べられるの?」と聞かれたときは、どう答えていいかわかりませんでした。食べたらかわいそうと言えば、じゃブタさんは? 牛さんは? と突っ込んでくるような子どもだったのです。

昨年と今年の2回、校長先生のお話をお伺いして、どうやら、私ども夫婦の子育てはそう大きな間違いはなかったと思っています。いや、それは見当違いだよお叱りをいただくかもしれませんが、学校説明会で私どもが感じましたことをお伝えしたいという衝動にかられ、お手紙をお送りさせていただきました。
中略

生徒の様々な表情
ある生徒が私どもとすれちがうとき、きちんと私どもの目をみて「こんにちは」と笑顔で挨拶をしてくれました。ちょこんとお辞儀をしてくれた生徒もいます。別の生徒は、はずかしそうに会釈で迎えてくれました。みんなそれぞれ異なったかたちで、私どもを迎え入れてくれる気持ちを感じました。私も妻も自然にわくわく嬉しくなる気分になって「こんにちは」と笑顔で応えてしまいました。

先生の教育スタンスと生徒の姿
4年生の国語の授業で、「ごんぎつね」の物語について数人の生徒の感想を聞く場面がありました。すばらしい授業と感心させられたのは、生徒が感想を述べる途中で、先生は全くコメントをされなかった点です。一人ひとりの感想をみんなで聞き、「いわしを投げ込んだことは、つぐないになるのだろうか」「ならない。なぜなら‥‥」「いや、なるよ。だって‥‥」など、生徒同士の発言に最後まで耳を傾けられていました。最後に、みんなで、声を出して朗読しました。全く発言のなかった生徒の大きな口が印象に残りました。私も、なんだか自分も声を出して朗読したい気分にかられました。お互いに自らの感想や意見を交わし、様々な考え方を受け入れようとする姿勢を感じました。たぶん、常日頃から先生方がその環境づくりを意識されているのではと思いました。

父兄と生徒、学校の三位一体での活動
今年と昨年の文化祭に行かせていただいた時、父兄の方々が率先して、楽しそうに活動されている姿が目につきました。餅つき、ストライクアウト等の催しもの、あるいはごみ処理などの裏方の仕事等、多くのお父さん、そしてお母さんが楽しんで活動されているのを見て、保護者と学校がひとつとなって、イベントを創りあげていく活動に感動いたしました。
中略
まだまだ、言葉では言い尽くせないほどの多く体験をさせていただきました。校長先生がおっしゃっておられる「自ら考え、自ら行動」を実際の学び舎で少しでも体感できましたこと、とても嬉しく思っております。

私どもの家庭でも昨年の学校説明会からちょうど一年が経過しておりますが、冒頭のような親子一緒に、動物園や水族館、山や海に出向き、自らの体験的活動を楽しく実践してまいりました。ようやく「自ら考え、自ら行動」という言葉を私どもなりに体で理解しつつあるのではないかと思っております。
最後に、貴校の学校説明会に出席させていただき、この学び舎でのびのびと小学校生活が親子一緒に送れればと願っております。

敬具

感想文を書くときの注意点として、以下のような指摘がありました。

冒頭で、昨年も今年も説明会に出ている、熱心で第一志望の学校であることをアピールしました。
建学の精神、教育方針と自分の家庭で実践している活動が具体的に適合していることをアピールしました。
説明会での具体的な事柄を述べ、その教育方針の一貫性を十分理解していることをアピールしました。
父親が書くことによって、親子三人が一体となっていることをアピールしました。


*ご覧のとおり、「感想」に徹した手紙です。御校に入学したいという文言は末尾の1行だけです。学校説明会の感想文を志望校に出すのであれば、「感想」に徹した感想文にする必要があります。本音がチラチラ見え隠れしたのでは逆効果です。

*感想文を出す目的は、学校説明会の感想を伝えることではありません。本当の狙いはただ1つ、「この父親に会ってみたい」「この父親の子どもなら‥‥」と思わせるためです。それには、どんな子育てをしているかに興味をもってもらう必要があります。単にわが家の子育てを述べるのではなく、志望校が求めるのはどんな子かを知ることが大切です。志望校の教育方針との接点が大切とはそのことです。

*むずかしいのは、子育て自慢にならないことです。上の感想文でも、「最初から、そう考えていたわけではありません」などの記述に見られるように、「教育熱心な父親(家庭)」という印象をもたれることをあえて避けています。「ドライブが好きだから、サクランボを見に連れて行っただけ」という抑制された記述が、逆に、読み手の好感と関心を呼びます。自慢話は控えめが鉄則です(編集部)。



第1回

第2回

第3回

第4回

第5回

第6回

第7回

第8回

第9回

第10回

トップページへ