連載企画 願書・面接資料の書き方

第19回


願書を見直すときのチェック・ポイント(その4)

みなさんからたくさんの願書の下書きをメールでお送りいただきました。1つ気になったことは、志望校の建学の精神や教育方針がいかにすばらしいものであり、そして、家庭の教育方針とどこがどう合致しているかを強調しているケースが多い点です。競争倍率があまり高くない学校や志望理由を重視していない学校ならそれでもいいのですが、人気校の場合は、こうしたオーソドックスな志望理由では学校の関心を引くことはできません。別の書き方が必要です。

「御校の教育環境のすばらしさに‥‥」という志望理由は、入社試験にたとえると、面接の際に、なぜ我が社に就職を希望するのかと聞かれて、「御社は通勤に便利であって」とか、「都心部にありながら緑が多く」と答えるのと同じレベルです。これでは読み手に何も関心は起きません。「学校説明会での校長先生のお話に感動した」とか「御校の在校生や卒業生からいろいろとお話を聞き‥‥」というのも熱心さは伝わるとしても、「この親が育てた子どもならぜひとも本校に入ってもらいたい」と思うかどうかです。

願書や面接を通じて、学校側が本当に知りたいのは、志望校の教育方針に対する理解度ではなく、「どんな子か」「どんな家族なのか」です。言い換えると、この子あるいはこの家族を受け入れて学校にどんなメリットがあるのかです。これは競争倍率が高いか低いかに関係ありません。私立校であれば当たり前のことです。たとえ、応募者が定員スレスレだったとしても、本音はそこにあります。もっとも、あまりきびしいチェックをするわけにはいかないので、志望理由にはこだわらないだけのことです。

「この子・この家族を受け入れるメリット」とは何かというと、その1つは、学校運営上、この家族を受け入れることがプラスになるケースです。極端なようですが、一国の総理大臣の孫が受験してきたら、よほどのことがないかぎり不合格にはしないでしょう。父親が県知事とわかっていて不合格にするには勇気がいると思います。父親が警察庁のキャリアというケースでは、面接の際に、「何かのときには、ご相談させていただいてよろしいでしょうか」と聞かれたといいます。

競争倍率が高い学校の場合、「この子・この家族を受け入れるメリット」が何もないというのはかなり不利になると思ったほうがいいでしょう。一族に有力な著名人がいるわけではないし、莫大な財産があるわけでもないという場合、何も活路がないかというと、実は、1つだけあります。子どもです。どの学校も優秀な子どもは喉から手が出るほどほしいのです。「この子・この家族を入学させるメリット」ばかりを入学させていたのでは、教育機関としてジリ貧になるのは必至です。このリスクをもっとも恐れているのは学校なのです。

いろいろな事情から、子どもの実力以外の要素が合否を左右するのが現実だとしても、学校としては「新しい優秀な血」はどうしても確保せざるを得ないのです。人気校ほどその傾向が強いと見ていいでしょう。実は、ここに、何もコネがない、財産もないという子どもが合格する可能性が残されているのです。

そういう背景を考えると、「御校の教育環境のすばらしさに‥‥」といった、オーソドックスな志望理由では不利になることは明らかです。では、願書はどう書いたらいいかですが、「願書とは、わが子・わが家庭を売り込むためのカタログ」だと考えたらどうでしょうか。言葉が適当ではないかもしれませんが、「わが子という商品」を売り込むには、何を訴えたらいいかです。そう考えると、志望校の教育環境のよさとか、学校説明会で校長先生が何を話したか、御校の在校生の躾のよさに感動したではなく、「わが子・わが家庭」の特質は何かを訴えなければなりません。

そうした視点から、もう一度、願書を見直してください。ただ、この原稿の最初に申し上げたように、競争倍率があまり高くないとか、志望理由にはこだわらないという学校の場合は、オーソドックスなスタイルでいいと思います。






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